Artwork Details
Medium: アナログ・ミクストメディア(自作のアルミペン、インク、薄葉紙のコラージュ)
Subject: 赤い紙のドレスを纏う女性の後ろ姿
Theme: 線と色の対話、背中が語る多角的な物語
Artist: Visual Story Artist Kazue Shima
色のバリエーション:グリーンとパープル
メインとなる赤のドレスに加え、全く異なる感情や情景を呼び起こすグリーンとパープルのバリエーションを展開。
ドレスの後ろ姿が持つ無数の場面と物語を、たった一つの色に限定することなく多角的に表現している。


The Story
真っ白な紙に、自作のアルミペンを下ろす。
この瞬間、私はあえて完成形の色を想像しない。色という概念から解放された安堵感と、後戻りできない一本の線を引くというわずかな覚悟だけで、ただ動きに身を任せる。
インクを含んだアルミの板は、どこまでも気まぐれで不安定だ。
少しでも油断すれば線は途切れ、意図せぬ方向へ流れていく。
金属の冷たい感触と紙の摩擦を確かめながら、ペンの角度とインクの流量を制御していく。
指とアルミ、そして紙。三者が互いの力を探り合い、拮抗し、ふと緊張が解けた瞬間に、生々しい「背中の線」がキャンバスの上に現れる。
アルミペンとの対峙が終わると、今度は繊細で儚い薄葉紙との対話が始まる。先ほどまでの張り詰めた緊張を解き放ち、今度は思い切り心を柔らかくして、鮮やかな「赤」にうっとりと身を委ねていく。
紙の上に模様を自由に散らし、ザクっと切り裂いて偶然生まれたフォルムを、黒い背中の線にそっと置いてみる。どこまでも薄い赤い紙は、私が削り出した線を隠すことなく、まるで元からそこにあった皮膚のようにそっと寄り添う。
モノクロームの背中が鮮烈な赤を纏った瞬間、その線は少しだけ安心したようにも、そして色に覆われたことでどこか歯がゆいようにも見え、言葉のない物語をそこに感じる。

Materiality & Context
今回はあえて筆を使わず、ボディのフォルムをアルミペンのみで描き出すという制約を自らに課した。
自作のアルミペンは、筆圧、角度、スピード、そして紙へ流れ出るインクの流量という複数の物理的要素が噛み合わない限り線が途切れてしまう。これほど不自由なツールはない。
しかし、この強烈な物理的抵抗と不自由さとの格闘がなければ、人間の身体が持つ狂おしくも生々しい線は決して表出しないのだ。
美術史において、人物を後ろ姿で描く「背面像(Rückenfigur)」は、鑑賞者の想像力を喚起し、作品の深淵な物語へと引き込む強力な視覚装置として機能してきた。本作では、アルミペンの金属的な緊張感で削り出された背中の線に対し、どこまでも柔らかい薄葉紙(Tissue paper)を「服」として、あるいは身体を守るべき「オブジェ」としてコラージュしている。
強靭で不自由な線と、脆弱で柔らかな紙。この相反する二つの方向から、表現のギリギリの中心へとそびやかしていく手法によらなければ、この高い表現の山には決して登頂することはできないのである。
制作プロセス:紙を切るアナログ・アプローチ
下絵のないアルミから流れ出るボディラインを想像しながら、アルミ板をカットして形を作る。太さやなめらかさは、ペンの形で大体決まってくる。
そうして出来上がったドレスの背中。その形をなぞるのではなく、色鮮やかな薄葉紙をザクザクと切り抜き、その偶然のフォルムからインスピレーションを得て、どうやってこのボディと共存させるのかが、その時に初めて見えてくる。
この触覚的でアナログな制作プロセス(Analog Process)こそが、デジタルには生み出せない確かな体温と物語を作品に与えている。

